仏教説話で、天から地獄まで仏様が蜘蛛の糸を垂らすというお話がありますが、娑婆では糸というのは無限に垂らすことはできず、ある長さ以上になったら自重で切れます。
一方科学の世界では、人工衛星(静止衛星)から糸を垂らして地球まで垂らせばエレベータが作れるんじゃないかとかいう話があり、これを宇宙エレベータなどど呼びます。これがまさに仏様の蜘蛛の糸と同じで「自重で切れない材料で作らないと作れない」と言われています。
自重で切れない材料は理論上はカーボンナノチューブなどがありますが、何万キロもの長さにするのは実際のところまだむずかしいようです。
そんなことを昨日考えていたんですが、実際のところ計算してみたらどれくらいの長さまで自重に耐えられるのか、ひもの太さを太くすれば大丈夫なんじゃないかとか疑問が湧いてきたので、実際に計算してみることにしました。
蜘蛛の糸は何メートル垂らしたら自重で切れるか
図1 蜘蛛の糸
蜘蛛の糸っぽくないですが図1に蜘蛛の糸の概略図を示しました。
図に必要な値を載せています。
Q(M^2)が蜘蛛の糸の断面積
L(M)が蜘蛛の糸の長さです
仏様がつまんでいるところ(円柱の上端)にかかる下向きの力がW(N)
重力を一定のGという値ということにします。
最後に、材料Bの比重をα、材料の破断応力をβ(N/sq)としました。
上端にかかる下向きの力が一番大きいので、ここにかかる力が破断応力以上になれば蜘蛛の糸は破断します。
まずWの値を計算します。
W=Q×L×α×G ―(1)
と表せます。
上端にかかる力が破断応力を超えると自重で蜘蛛の糸が切れます。
つまり
β×Q≦Q×L×α×G ―(2)
β,α,Gは材料と地球に依存する定数なので、Lを長くしていくとWはLに比例して大きくなっていき、(3)が成立した時に破断します。
L≧ β/(α×G) ―(3)
グラフで描くとこのようになります。
図 蜘蛛の糸が自重で破壊されるグラフ
結論としては天から地獄までの距離がβ/(α×G)以上の場合は仏様は糸を垂らすことはできません。その場合は材料選定からやり直してβがもっと大きな材料を探す必要があるでしょう。
断面積を小さくしていく場合
断面積は一定としましたが、断面積を小さくしたり大きくしたりすれば垂らすことができる長さは変わるでしょうか。
実はもう結論は出ていて、さっき示した(2)の式でQが消え、(3)の式ではもうないから変わりません。破断するかしないかはQには依存しない、つまり全く関係ないということです。
わかりやすく説明しようと思ったら「断面積を大きくするとその分荷重が増えるので結局断面積ごとにかかる力は変化しない」ためにQは関係ないということが言えるでしょう。
天から地獄までの距離を計算 (追記)
文献によると蜘蛛の糸の破断強度は1GPaだということです。
(Ref:蜘蛛の糸ーその蛋白質科学,大崎)
さらに以下の資料によれば蜘蛛の糸の比重は約1.2であるとのこと。
そして重力は地上では約9.8[N]です。
これで天から地獄までの距離が計算できます。
式(3)より
L=1×10^9[N/M^2] / (1.2×9.8[N])
=85034014m
以上より、天から地獄までは最高で約8.5万kmという結論になりました。
静止衛星まで3.6万kmなので宇宙エレベータに使えそうですが、あくまで”破断強度”なので変形リスクとか安全率とかを考えると難しいかもしれません。
ちなみにカーボンナノチューブの破断強度は100GPa以上なので宇宙から垂らしても余裕で大丈夫ですね。